台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

第二十五夜

真っ赤なフェラーリでお買い物。 半額の時間を狙って。 いざスーパーへ突撃せよ。 アクセルとブレーキを踏み間違えるな。 半額サバ弁、召し捕ったり。 半額ヒレカツ、召し捕ったり。 真っ赤なフェラーリが、スピンターン。 半額スイーツを、買い忘れたよ。 …

第二十四夜

上の階がうるさい。 漬け物石を落としまくっている。 いきなり風呂場の電球が切れた。 続いてトイレの換気扇が止まった。 時々、金魚が立ち泳ぎしている。 水面に浮いた泡を食っているらしい。 そのうえ時計をチラチラ見ながら、エサの時間を気にかけている…

第二十三夜

気付けば毎朝、食パンばっかり食べている。 怪しげなマーガリンをたっぷり塗って。 手軽な文化にどっぷり浸っている有り様。 体の事が少し心配になってくる。 だったらコメを食えばいいのに。 余計なものなど入っていないし。 「朝食う白メシに勝るものなし…

第二十二夜

かっぱえびせんの塩気に惹かれる。 日曜日の午前。 競馬には手を出さない。 痛い目には遭わない。 朝からかっぱえびせんを、一袋空ける。 すがすがしい気分になれない。 少し、心が痛い。 せめて半分にしとけば良かった。 残りを午後に回せば良かった。 富の…

第二十一夜

口さみしいのに、歌う歌がありません。 ひと晩じゅう、安いホルモンをひたすら噛んで過ごしています。 十年前に開けてひと口飲んだだけ。 今更ながらその酒を、奈落の底まで探しに行こうか。 ふとストーブの火が消える音。 「灯油はあるか」 具のないおでん…

第二十夜

ラグビー日本代表が、畑の中からカボチャを略奪して走る。 襲いかかる農家をかわし、渾身のキックを決めれば、粉々になったカボチャの雨が降り注ぐ秋日。 五穀豊穣を祈って、何度もカボチャを略奪しては蹴り上げる、まさに農家泣かせの奇祭だ。 子供らは、お…

第十九夜

長い夏になりました。 ようやく秋かと思ったら、細いサンマが回って来ました。 今年はどこからも、巨峰が届かずに秋。 「カツオはいつ戻ってきたのか」 それにはきっと、長い言い訳が必要だ。 栗の爆弾を踏んで、タイヤを一本パンクさせた秋。 鉛筆の様なサ…

第十八夜

今の曲、ベートーベンの「月光」でした。 すすんで十五夜に聴く事はないね。 まだまだ宵の口。誰も寝てはならぬぞ。 今宵、有次の包丁が、月の光に照らし出されているうちは、寝てはならぬと錦の料理人は言う。 月見団子がないから代わりに、玉ねぎさん太郎…

第十七夜

「特売で、水菜を買いすぎてしまいました。どうしたらいいですか」 こんな声が届いています。 「ひとかかえも買っちゃいました」か。どうすっかなぁ。 ここはひとつ、ドラム缶でハリハリ鍋でもやりますか。 クジラ、獲ってきましょうよ。クジラ。 命がけだよ…

第十六夜

気付けばパサパサになっていたオニオンスライスを、カツオのたたきにトッピング。 放置していた福神漬けを食べきるために、明日はカレーだ。 期限切れのヨーグルトは、タンドリーチキンに使うか。 湿気った焼きのりは、ウニとイクラの軍艦巻きにする。 カビ…

第十五夜

冷凍庫に餅がみっしり詰まっている。本当に、餅ばかりだ。 おかげで庫内が全体白い。呆れるほどに、真っ白である。 先日、神社でまかれた餅を拾い集めた結果である。 おかげで冷凍食品を突っ込む隙間がほとんど無い。 今日のチラシに冷凍食品半額の文字が踊…

第十四夜

夜も更けて、冷蔵庫を開けると赤い。 赤ピーマンにトマトに人参。 賞味期限の切れたキムチ。 発酵しまくったキムチがとりわけ赤すぎる。酸味がかなり強そうだ。 夜食にキムチチャーハンを、作ったところで酸っぱいだろう。 「赤いきつね」の方が良い。 いら…

第十三夜

納豆の糸は、蜘蛛の糸より弱いことが判明した。 だったら地獄に堕ちた者など、到底助けられないね。 「そこでだ」 まずは納豆の糸にメカブの糸をより合わせ、一晩置く。 そこにとろけるチーズの糸引く部分をさらに絡めて、また一晩。 これを三度繰り返し、出…

第十二夜

モロッコいんげんを、卵でとじている隙に、モロッコから来たタコが丸々茹で上がり 半夏生。 小諸なる古城のほとりでとれたモロコを取り寄せて焼く。 北海道のモロコシは、そのまま輪切りにして皿へ。 後はやっぱりモロキュウと酒。酒は、モロ白。これで決ま…

第十一夜

三年越しのぬか床に、納豆を入れてかき混ぜる。 豆腐をそこに漬け込んで三日。 取り出したらさいの目に切って、味噌汁の具にしていただく。 「では、ぬか床に花を生けます」 季節の野菜と同様に、旬の花を生けましょう。 「いいですか。百合の花は根をしっか…

第十夜

「鳴門のらっきょうはいらんかね」 玄関口で声がした。 栗原はるみに似たおばちゃんが、リヤカーを引いて売りに来ていた。 「間違いないよ。鳴門のらっきょうは」 いいモノだからとすすめられ、三年分ほど買ってしまった。 シンクにたっぷり水を張り、そこに…

第九夜

気が付けば、高血圧になっていた。 まだ薬には頼るまいと、塩ラーメンのスープを残し、カゴメのトマトジュースを飲んだ。 にわかには、信じがたい味がした。 子供の時分に打ちのめされた、あの強烈なクセがほとんど無くなっている。 飲み口は至ってマイルド…

第八夜

気付けば指にイボがいくつも出来ていた。 「タコの呪いだ」 通りすがりの漁師が、当然のようにそう言った。 何の因果か、その漁師から、イボ鯛を4、5匹貰った。 煮ても焼いても、唐揚げにしても、まことにうまい魚である。 日に日にイボは増殖した。 とれ…

第七夜

夜のおかずを釣りに行く。 仕事帰りに、ふらりと海へ。 その辺にいるフナ虫を餌に。 糸を垂らして10秒待ったら、いきなりカッパが釣れました。 となりの猫も、飛びのく外道。 神経抜いて、血抜きして、姿造りにするが良い。 思いもよらず、これが美味。 身…

第六夜

風呂上がりの浴室に、プロセスチーズを一枚置きます。 扉を閉めて、一晩。換気扇は回さずに。 翌日は、湯船の湯を、くるぶしにかかるほど残して。そこにもち米を2㎏、浸します。 チーズは一度、ひっくり返して。 再度、扉を閉めて、一晩置きます。 小豆を1…

第五夜

雨が降っている。夜も近い刻限。 あばら家の軒先で、傘も持たずにバナナをかじる迷子がひとり。 途切れ途切れに異国の歌を雨音に乗せて歌っている。 道行く人など、どこにもいない。猫も蛙も出てこない。 街灯ひとつない裏通りが雨に黒々と染まっている。 バ…

第四夜

夕日が射す公園。誰もいない。 今週の競馬も終わった。 やれやれ。どうにもこうにも、話にならない。 私の頭は早々に力が尽きて、見せ場なく、後ろのほうの馬群に沈んだ。 隣に猫が座っていた。 「アジのたたきでも食うか」 そのどら猫は、憎たらしい顔をし…

第三夜

真っ赤な初代ロードスターが、交差点で停車しました。 屋根は全開。 青い空の高みには、トンビが一羽、翼を広げて悠々と旋回している姿が見えます。 ロードスターのドライバーは、岡本太郎にそっくりな御仁。 太郎はさっそく、サンドイッチを取り出して、停…

第二夜

こんばんは。 熱燗で一杯、やってます。 夜も更けて、何やら風が凄まじいですね。 道行く人は、横なぐりのクラゲに注意してください。 新聞受けにヤリイカが一本、飛び込んできました。 「こいつを炙って、酒の肴にするがよい」 勝手に家に上がり込んでいた…

第一夜

乱切りしている。食パンを2枚。 しかも、中華包丁で。 そのうえ川の中州である。中華の達人が、そこで腕をふるっている。 今度はハムの塊を、中華包丁で削いでいる。 空は一面霞んでいる。 下流から、光化学スモッグが、じわりじわりと押し寄せてくる。 真っ…