台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

2021-01-01から1年間の記事一覧

第五十三夜 サッポロ

ケンタッキーは諦めた。大人の事情で見送りだ。 今年はあえて、焼き鳥だ。タレ十本に塩十本。 あのクリスマスバーレルと比べるなんて、ヤボなこと。 キャベツ刻んで自家製のコールスローも作ってみるか。 ケンタの味になるように、ネットでレシピを見つけて…

第五十二夜 神宮

ヤンキースタジアムで焼き鳥とビール。両国の国技館で相撲を観ながら、ポップコーンでもいいんだよ。 中入にはみんなで大合唱してさ。 千秋楽の国歌斉唱さながらに、すべての人が起立して、恒例のアレ、歌いましょうよ。 「私を球場に連れてって」 もう家に…

第五十一夜 大和

もう冬か。なんて鳥肌立てて大和路で、赤や黄色の紅葉に埋もれ、きつねうどんをすすっています。 そりゃずいぶんと迷いましたよ。ここまで辿り着くのには。 そうは言っても今もなお、自分が大和のどこにいるのか、はっきりわかっていませんが。 まあ、幸運に…

第五十夜 奈良漬け

ここはひとつ、ショパンの「雨だれ」はどうですか。 ともすれば、日本の梅雨にも合うからと、勝手に上がり込んできて、手持ちのピアニカを奏でる隣人。 ペヤングの匂いに惹かれてやむなく乱入したって言うけど、その気持ち、分からなくもないな。 「お礼に、…

第四十九夜 らっきょう

やがて、雨が降り始めた。 あえてぬかるんだ畑に入り、ドロドロになってまでキュウリを採ることもなかろうと、遠征は中止。 家に帰ると妻はいくらか気を取り直し、黙々とらっきょうの皮をむいている。 「アナハイムも雨だってさ」 綺麗にむかれたらっきょう…

第四十八夜 梅雨

梅泥棒って、珍しくはない。スイカ泥棒に米泥棒、年中行事のひとつである。 私はその列に名を連ねたくはないので、ここは妻の甘言に乗らず、自重。 実家の畑に遠征して、頃合いのキュウリを四、五本もいでくるが宜しかろう。 妻は勢い、足元の梅の実を蹴り飛…

第四十七夜 南高梅

たまには妻と、ウォーキングに出かけるか。黄昏時を狙ってね。 誰が誰だか分からないから良いのだと、妻は言うけど。 狭い町だし、面が割れると少々気まずいって事もあるのかも知れんが。 それにしても、日が長くなったな。夜七時半を回っても、個体の識別が…

第四十六夜 ペペロンチーノ

異変を察知した訳ではないが、いつもより早めに、妻が寝室から這い出して来たぞ。 リッチーブラックモアばりの、ロッククラシックな長髪を、前後左右に激しく振り乱しながら。 「何事かあらむ」 努めて平静に私がただすと、 「かが、かが」と、えらく痰が絡…

第四十五夜 ミロ

朝っぱらから金魚売りが近所を回っているなんて、世も末だね。 無駄に甘い食パンには、オリーブオイルを回しがけて、少しはリカバリーするか。 近頃牛乳にミロを混ぜるが、こいつもなかなかに甘ったるいし。 加えてバナナも甘いじゃないか。 朝っぱらから大…

第四十四夜 山椒

スーパームーンに皆既月食が重なって、あたりはいくぶん、暗くはなったが。 この夜にまさか、釜など抜かれはしないだろうね。 闇に紛れて糠床に、山椒の実をパラパラと。 呪文を唱えつつ妻が、新たに糠に混ぜ込むモノとは。 その山椒の実以外、この位置から…

第四十三夜 きゅうりの糠漬け

糠漬け始めました。 ある日突然、私の妻が。 以前もそんなことがあったが、いつの間にかやめてしまった。 理由はいったい、何だったかな。飽きて、やめたのかも知れないな。 まあ良い。余計なことは、あえて聞くまい。 なにはともあれ糠床が、家にあるって素…