台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

第三十二夜 もそろ

緊急事態宣言の夜、淡路の真鯛の目が光った。 バッハはソーセージを手土産に、神戸の港に上陸した。 六甲おろしは吹かなかった。 桜鯛の姿造りに灘の生一本。 泥酔したトラッキーに降りかかる長尺のマタイ受難曲。 暗いカウンターの片隅で、つば九郎は羽を休…

第三十一夜 酒かす

二軒目のスーパーで、同じ酒かすが、一軒目より二十円安い。 そのショックを、布マスクで覆い隠してスーパーカブにまたがり帰宅。 ヒノキ花粉と新型コロナウイルスが、桜の花びらとともに舞うのも止むなし。 シラフで眺める花もたまには良かろうと、令和の世…

第三十夜 ザラメ

金魚が横目で時計を見ている。 思えば今日も、それほど悪くない一日であった。 褒美に福砂屋のカステラと、福岡八女の玉露をいただく。 赤い月がのぼれば時に、誰も知らない海路がひらく。 カステラがこの国に伝来したのは幸運であった。 おかげで今宵も、絶…

第二十九夜 ISS

土曜日の夕刻に、洗濯機を回しました。 「これっきりボタン」を押して、後は待つだけ。 ぬるいインスタントコーヒーを、うまくはないのに飲み続けています。 キャラメルコーンの袋の底に埋もれている、ローストピーナッツを探しながら。 外はすっかり日暮れ…

第二十八夜 下足

窓の外が、急に暗くなりました。 テーブルの上には、デコポンと不知火。 火影が揺らめく部屋の中で、ひそかに炙られるスルメイカの下足は絶品です。 はやり病を断つという、秘伝のレシピは牛頭天王の飾り棚に。 うなぎ犬とともにあります。 西からのぼるお日…

第二十七夜 陽水

井上陽水を聴いていました。 窓の外から、リンゴ売りの声は届いてきませんが、キジの鳴く声は、時々します。 鉄砲で撃ったところで、キジをさばくなんて無理。 リンゴの皮なら、何とかむくことができますが。 3時のおやつはローソンの、プレミアムロールケ…