台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

第三十二夜 もそろ

緊急事態宣言の夜、淡路の真鯛の目が光った。

バッハはソーセージを手土産に、神戸の港に上陸した。

六甲おろしは吹かなかった。

 

桜鯛の姿造りに灘の生一本。

泥酔したトラッキーに降りかかる長尺のマタイ受難曲

暗いカウンターの片隅で、つば九郎は羽を休める。

東京音頭は流れない。

 

店主ジャビットは、ここぞとばかり、秘蔵のドブロクを引っ張り出した。

ツマミは「かにかも」と「うな次郎」の辛子マヨネーズ和え。

それをラッキーに差し出す。