台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

第四十八夜 梅雨

梅泥棒って、珍しくはない。スイカ泥棒に米泥棒、年中行事のひとつである。

私はその列に名を連ねたくはないので、ここは妻の甘言に乗らず、自重。

実家の畑に遠征して、頃合いのキュウリを四、五本もいでくるが宜しかろう。

妻は勢い、足元の梅の実を蹴り飛ばし、野良犬に吠えられて逆上。肩をいからせ、帰ってしまった。

路上には、潰れた梅が点々と、そして私が、取り残された。

この暗がりの中、足を運ぶのにあたっては、重々気をつけねばなるまいよ。

星一つ出ていない闇夜であるが、行きずりの梅の実が放つ香りにやられてしまう。

まもなく雨が降り出しそうな匂いもそこに混じってくる。