第四十七夜 南高梅
たまには妻と、ウォーキングに出かけるか。黄昏時を狙ってね。
誰が誰だか分からないから良いのだと、妻は言うけど。
狭い町だし、面が割れると少々気まずいって事もあるのかも知れんが。
それにしても、日が長くなったな。夜七時半を回っても、個体の識別ができるじゃないか。
暗くなるまで待って、ショパンとリストの区別が付かないレベルに達したら行くぞ。
で、いざ外に出てみたら、意外なことに湿気ってないな。
一応梅雨ってことなんだけど。
まあ何にせよ、歩きやすくていいや。快適、と妻も機嫌よく歩いていたら、突然。
路上に見慣れぬ物体が、三つ四つ、いや、もっと。ピンポン玉がばらまかれているかと思ったら、さにあらず。よくよく見れば、その正体は、「紀州南高梅ではないか」
あけすけに妻は舌打ちをかまし、空き家の庭から伸びる梅の木を睨みつける。
「こんな所に南高梅があってたまるか」
もしそうならば、漬けてやる。
「もしそうならば、盗って来てよ」