台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

第五夜

雨が降っている。夜も近い刻限。

あばら家の軒先で、傘も持たずにバナナをかじる迷子がひとり。

途切れ途切れに異国の歌を雨音に乗せて歌っている。

 

道行く人など、どこにもいない。猫も蛙も出てこない。

街灯ひとつない裏通りが雨に黒々と染まっている。

バナナの何と黄色いことか。

 

レッドツェッペリンのレインソング。

バナナを食べ終えた迷子は突然、雨の中にその身を投じる。

また新たな軒先へ、タイムスリップしたのだろうか。

よく滑りそうなバナナの皮が、静かに雨に打たれている。