第三夜
真っ赤な初代ロードスターが、交差点で停車しました。
屋根は全開。
青い空の高みには、トンビが一羽、翼を広げて悠々と旋回している姿が見えます。
太郎はさっそく、サンドイッチを取り出して、停車中に食ってやろうとしていました。
予測だにしない突風が、その時、ロードスターの真横をかすめていきました。
それと同時に、太郎のサンドイッチの中身が、一瞬にして風にさらわれていきました。
なぜか、中身だけです。
レタスが吹っ飛び、ハムが凄い勢いで、クルクルと回転しながら、信号待ちの老婆の右頬に直撃しました。
信号が青に変わると、太郎は近くのコンビニへ、一直線に突撃しました。
中身のない、もはやサンドイッチとは到底言えぬシロモノを手に。
そして、店内に入るやいなや、太郎は手にしたパンを広げて、
「ここにハンペンを挟んでくれ」と、爆発したように叫びました。