台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

第二十一夜

口さみしいのに、歌う歌がありません。

ひと晩じゅう、安いホルモンをひたすら噛んで過ごしています。

 

十年前に開けてひと口飲んだだけ。

今更ながらその酒を、奈落の底まで探しに行こうか。

 

ふとストーブの火が消える音。

「灯油はあるか」

具のないおでんのだし汁だけが香る部屋。

 

何もない春に向かって、何もしない冬の日々が続きます。