茶せんを懐にしのばせたまま、しばしば利休は町へ下った。
はき慣れたワラジの底は赤い。まさしくルブタンの、別注品だ。
茶室は宇宙だと、一度も思ったことはない。
誰かが引きこもりの口実に、使っていただけである。
日頃から利休は、旬の物を求めていた。
その目は確かだったから、市場では他に抜きん出て、上物を次々仕留めた。
その帰りには、なじみの茶店でエスプレッソを味わった。
その度に、懐の中の茶せんがうずいて仕方がない。
たまにはコーヒーを点ててみるのもいいかと思うが、変な気は起こすなと、厳しく豊臣秀吉にいさめられた。