台所夜話

食べ物にまつわる夢の話

第三十九夜 千利休

茶せんを懐にしのばせたまま、しばしば利休は町へ下った。

はき慣れたワラジの底は赤い。まさしくルブタンの、別注品だ。

 

茶室は宇宙だと、一度も思ったことはない。

誰かが引きこもりの口実に、使っていただけである。

 

日頃から利休は、旬の物を求めていた。

その目は確かだったから、市場では他に抜きん出て、上物を次々仕留めた。

 

その帰りには、なじみの茶店エスプレッソを味わった。

その度に、懐の中の茶せんがうずいて仕方がない。

たまにはコーヒーを点ててみるのもいいかと思うが、変な気は起こすなと、厳しく豊臣秀吉にいさめられた。